代表コラム(2号)
MMPEまであと189日!
ドリフトフックスモデルで有名なNorzak Zuber教授(1922-2013)が1999年に講演された言葉を紹介させてください。講演のタイトルは「The Effects of Complexity, of Simplicity and of Scaling in Thermal-Hydraulics」。直訳すると、熱流動における複雑さと簡単さとスケーリングの影響です。ここで教授は、年々複雑化していく計算コードによって逆に現象を把握する能力が低下する危険性に警鐘を鳴らし、熱流動に関する解析は3つのスケール、すなわちマクロ(システム)、メソ(セル)、ミクロ(散逸)を通しておこなうことで効率が得られることを示しています。それから約12年後に始まった、MMPEの略称は、Multiscale Multiphase Process Engineeringです。ちゃんとMultiphase(混相流)にMultiscale(マルチスケール)が付属していることが、興味深いです。
一方、金さんの著書「世界は「e」でできている」からの引用ですが、この本発行時点(2021年)では複雑系科学は定義が定まっていないそうです。統計力学、情報理論、非線形力学も含まれています。カウフマンによれば、複雑系の数学は未開拓だと言います。もし「数学」という分厚い本があるとすれば、人類は第1章「線形数学」を読み終えたにすぎず、第2章以降の「非線形」はまだほんの少ししか読み進めていません。非線形力学を扱うMMPEは、複雑系科学に入れてもいいのではないでしょうか。化学的なミクロスケールの変化が、装置スケールのマクロな流動に影響する。あるいは、mスケールの世界にいる私たちが、分子を組みかえるために操作する。このため、単一なスケールだけではなかなか解決しがたい議論がこれまでもおこなわれてきました。実験においては工業装置スケールでの測定もあれば、顕微鏡やSEM(走査電子顕微鏡)まで様々なスケールで観察が必要です。シミュレーションやモデリングも、多様なスケールで議論がなされています。そして、複雑系科学で「創発」が起こるように、気泡・液滴・微粒子の一見異なる分野の人の交流があらたな研究を生み出しています。
計算機性能が発達した現在なら、改めて再考察する必要もMMPEで展開出来たらいいなあと、想像してしまいます。